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富士五湖の中心で、
地域の文化が息づく場をつくる。

FUJI TEXTILE WEEK × FSX, Inc. × upsetters inc.

「おしぼり」のレンタル・企画開発を手掛けるFSX株式会社の新たな取り組みとして、2025年 7 ⽉に富士河口湖町にフレンチカフェ&テラス「Expression Kawaguchiko」をオープンした。この場所を拠点に、布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2025』(フジテキスタイルウィーク) との連携が実現し、独自のアートプロジェクトを発足。その際に、トークイベントを敢行しました。FSXのブランディングパートナーとして、店舗のコンセプトづくりや設計も担当し、ブランド戦略全般を並走している「upsetters inc.」(アップセッターズ)の岡部修三(写真右)、FSX株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの藤波克之(写真中央)、「FUJI TEXTILE WEEK」事務局長をつとめる八木毅(写真左)が集い、鼎談。地域性、地域と連動した取り組み、文化的なアプローチを軸に自由に語り合いました。

富士山の麓で仕事や
新しい取り組みを
するということ。

藤波

岡部:FSX株式会社の新たな取り組みについて、今日はお話してもらいたいと思いますが、まずは、はじめてFSX株式会社に触れる読者の方に、ご挨拶的なメッセージをお願いします。

藤波:ご存じのとおり、弊社はおしぼりの会社です。おしぼりには“おもてなし”の側面があり、人と人を結ぶ価値や可能性を信じて国内外に展開してきました。我々が 河口湖周辺に縁あって、会社を設立することになりました。この場所で仕事をすることは、決して最初から用意された道ではありませんでしたし、自分にとって、とても大きな意味があります。実は、同業他社がこのエリアで活動している姿を、長らく羨ましい、と感じていたんです。なかなか自社が入っていくきっかけがなかったですし、その間、海外へ市場を広げる挑戦を続けてきました。 転機となったのがコロナ禍で。東京は何でも揃っているけれど、何をするにもお金がかかる。自分の感覚では、それが少し窮屈に感じてしまうところがありました。だから、歴史や文化があり、自然に囲まれた富士山の麓で仕事をしたいと思って。それを実現できたことは、本当に嬉しいことだと思っています。富士吉田にも遊びに行き、本町通りや西裏で八木さんにお会いできたことにもご縁を感じています。八木さんが立ち上げた、築80年以上の町家を改修した宿泊施設「SARUYA HOSTEL」にお邪魔したのが出会いのきっかけです。

岡部:プライベートで行かれたのですか?

藤波:そうなんです。以前から気になっていて。その時は、いつも仲良くしているアーティストの雨宮庸介さん、インディペンデント・キュレーターの窪田研二さんと「この辺でアーティスト・イン・レジデンスができたら」とざっくばらんに話をしていました。会社のことを良くしていく上で、クリエイティビティを兼ねる場が欲しかったんです。

岡部:なるほど。そうした経緯があり、藤波さんはこの地域にいろんな可能性を感じていらっしゃるのですね。以前「富士山が特別」とお話されていましたが、その感覚について詳しく教えていただけますか?

藤波:日本人で富士山を知らない人はいないし、海外でも“桜と富士山”は日本を象徴します。コロナ禍のとき、東京にいると緊張感が高まりましたが、富士山の麓エリアは、空気もよく、牧歌的で。当時聞いた話で、海外の人が日本語で検索するワードの1位が「富士山」、2位が「鳥居」、3位が「巫女」だったと。ここにはそれらが揃っている。日本文化の文脈として、ここで仕事をすることは切り拓ける領域が広いと感じました。

岡部:人間の心を動かす根源的なものが、この地に存在しますよね。八木さんも、富士吉田で活動されていますが、そのきっかけを教えてください。

富士吉田の
地域活性のために
立ち上がる。

八木

八木:私はもともと油絵を学び、フランスではコンセプチュアルアートを勉強してアーティストを目指しました。リーマンショックを経て帰国する事になりましたが、食べていくことが難しく。東京でデザインの仕事に転じることになりました。4年ほど勤めた後、震災の影響で同世代のクリエイターが京都や長野など地方へ移り始め、私自身も生き方を自問自答しました。そのタイミングで友人に誘われ、富士吉田で地域のためになる活動をやってみようと。10〜11年前に移住したのがきっかけです。実際に移住してみると、富士山、五重塔、桜の絶景スポットとして知られる「忠霊塔」を目当てに来るタイ人観光客人が多くて。それは、とあるブロガーの発信がきっかけだったようです。そうした動きがあるにも関わらず、中心市街地には人が来ない。それが大きな問題であり、課題だと思いました。観光客が街の印象が分からないまま帰ってしまう現象を何とかできないかと思い、宿屋「SARUYA HOSTEL」の運営を決めました。さらに、朝食を食べる場所がないならカフェ「Fab Cafe Fuji」をオープンしよう、と。文化的な楽しみが必要ならアーティスト・イン・レジデンスを――と、街に必要なものを自分たちにできる範囲で整えてきました。『FUJI TEXTILE WEEK』の事務局を担っているのは、そうした取り組みと地続きのものだと捉えています。多くの人に産地のことを届け、考えてもらえるプラットフォームになったらいいな、と思っています。

岡部:そうした想いがあったのですね。『FUJI TEXTILE WEEK』のはじまりについて、詳しく教えてください。

FUJI TEXTILE WEEK

八木:はじまりは、2021年です。アーティストが街に来られる環境づくり、産地とつながる方法を模索した結果辿り着いた、「テキスタイルと芸術」を融合させた国内唯一の「布の芸術祭」です。コロナ禍に東京へ出ていく発表の場が難しくなり、逆に富士吉田に来てもらう転換が必要だと感じ、文化庁の募集を機に動きました。実現のための必要な書類が本当に多くて……。当時の市役所職員と二人三脚で進めました。役所の方の手厚いサポートがなければ実現し得なかったと思います。現在やっている取り組みでは、1000年の歴史を持つ織物産地の伝統産業と地域活性化を目指しています。使われなくなった工場や倉庫などを会場に、国内外のアーティストと地元の織物事業者がコラボレーションした作品展示や産地の歴史に触れる展示、ワークショップなどを展開しています。

藤波:私は前回(第3回)から案内を受け、古い織物工場を使った展示や、人々の息吹が伝わる作品性に感動しました。企業版ふるさと納税で応援しつつ、この店を作る段階からもう一歩踏み込みたい、という思いが強くなりました。 「瀬戸内芸術祭」など大きな芸術祭も素晴らしいですが、布で繊維問屋と関わるこの取り組みは洗練があり、街も確実に活気づいていると感じます。西裏の街の面白さ、古い町並みの新鮮さに惹かれて、本町通りや芸術祭への関わりが深まりました。この取り組みに、自分たちももう一歩、踏み込みたいと思いました。加えて、河口湖と富士吉田の行き来を活性化できたらいいな、と。

岡部:外から来る人には意識しづらいですが、地元の人にとっては富士吉田と河口湖のすみ分けはありますよね。

『FUJI TEXTILE WEEK』を
続けることで、
織物産業とアーティストの
ケミストリーが生まれる。

岡部:『FUJI TEXTILE WEEK』第4回を迎えた今、感じていることを教えてください。

八木:2025年は取り組みのひとつとして、「共同(コラボレーション)」をテーマに、森山茜さん、ジュリエット・ベルトノーさんら5組と機屋が協働しました。森山さんと組んだ「舟久保織物」さんは、途中でくじけそうになりながらも技術的課題を乗り越え、一歩前進したと実感されています。『FUJI TEXTILE WEEK』という発表の場があることで、努力の結晶が見られ、これまでとは異なる反応を受け取れるのは、大きな収穫です。ちなみに、オランダのティルブルフには、アーティストが機織り設備を使えるミュージアムがあります。富士吉田にも、アーカイブ展示にとどまらず新しいコラボが生まれる拠点ができれば、産地はもう一歩前進し、「クリエイティブな町」としてさらに成長できると思います。

FTW2025 A-POC ABLE ISSEY MIYAKE《TADANORI YOKOO ISSEY MIYAKE》

藤波:それは期待感が高まりますね。

八木:『FUJI TEXTILE WEEK』があることで、「次はこのコラボを」「2年後にこういう作品を」と、それぞれが計画できる。FSXさんもおしぼり×アーティストで挑戦して、機屋と協業することもできますよね。各会場で機屋×機屋、機屋×アーティストがどんどん発表される。みんなが楽しめるプラットフォームに育てていきたいです。最後はアーティストが目立ちますが、「一緒に作った」とアーティストから感謝を受けることで、機屋に誇りが生まれる。そうした関係性が築ける出会いの場でありたいです。

岡部

藤波:地域創生には課題が多いけれど、「自生的に動き出すエンジン」が備わると、新しい可能性や参加のしやすさが生まれる。改めてそう感じます。

八木:イベントがあることで、ふだんの生活で織りものやクリエイティブに縁のない人も鑑賞者として感じてもらえる機会が増えますし、時に評論の機会にもなると思います。それが作り手にとってプラスになる。4回目の開催を終えて、これからもチャレンジングなことを続けるべきだと再認識しました。

 

岡部:調査・研究を行う専門機関や施設である“リサーチセンター的”な考え方が良いですね。芸術祭は各地にありますが、産地と結びつくことで意味が深まる。ちなみにあと何回続けたい想いがありますか?

八木:行政が主催し税金を使う以上、永続は簡単ではないですが、でき得る限り、続けたいです。コラボの実現、産地の価値向上、継承問題の解決、人材の意欲醸成といった次の未来につながるなら、私の役割はそこまで持っていくことだと思っています。 人が来て良いと言ってくれることが継続の鍵です。今はとにかく多くの方に声をかけ、来ていただくようお願いしています。

岡部:イベントの内容は理解しているつもりでも、やはり、ご本人の言葉で伺うと理解度が深まります。課題も含め、一緒に考える会のスタートにしたいです。芸術祭は「何も考えず楽しめる場」として素晴らしい一方、消費されてしまう懸念もあって。継続的な仕組みにして、ここで生まれたものが誇りとなって産業に戻る循環をつくりたい。そこにビジネスチャンスもあるし、活動の向上効果にもなるはずです。

藤波:私たちはサービス産業から始まり、タオルを仕入れておしぼりにするところから今に至っています。産地の生地づくりに関心がありますし、ビジネスだけでなく面白いことができたらという思いも強い。FSXはおしぼりを軸に誇りを持っており、販路も日本と海外に広がっています。富士五湖の中心で動く立場として、産地に目を向けるきっかけをつくれたら役目を果たせるように思っています。

岡部:おしぼりは布(テキスタイル)×サービスで成立しています。テキスタイルの新しい可能性が広がれば、おしぼりの周辺でもアップデートが起きると思います。 

藤波:まさに岡部さんに言語化していただいた通りです。私たちがこれから取り組みたいことはそうしたこと。楽しみながら、アップデートしていきたいです。

プロフィール

岡部修三(おかべしゅうぞう)

2004年よりupsetters architects 主宰/建築家。「新しい時代のための環境」を目指して、建築的な思考に基づく環境デザインと、ビジョンの継続的な探求のためのストラテジデザインを行う。2016年社名変更のタイミングより、FSXのブランディングパートナーとして、ブランド戦略全般を並走している。JCDデザイン賞金賞、土木学会デザイン賞優秀賞、グッドデザイン賞、iFデザイン賞など、国内外での受賞歴多数。

藤波克之(ふじなみかつゆき)

NTTグループを経て、2004年に前身となる藤波タオルサービスへ入社、2013年より現職。FSX株式会社 代表取締役社長 兼 CEO。衛生資材である「おしぼり」を起点に、従来の枠組みを超えて、体験価値や文化へと拡張することをテーマに事業を展開。独自の特許技術「VB」を軸に、飲食・宿泊・医療・公共空間など多様な現場と向き合いながら、衛生の再定義とブランド価値の構築に取り組んでいる。24年8月カリフォルニア大学サンディエゴ校 公共政策大学院 修了、26年3月横浜薬科大学大学院薬学研究科 博士号(薬科学)取得、ファミリー・ビジネス・ネットワーク・ジャパン 理事

八木毅(やぎつよし)

株式会社DOSO 代表/アートディレクター・企画プロデューサー。山梨県富士吉田市在住。2015年より、築80年以上の町家を改修した宿泊施設「SARUYA」を立ち上げ、地域に根ざしたホスピタリティの場を運営している。2017年、国内外のアーティストが長期滞在し制作活動を行える「SARUYA Artist Residency」を開始、2022年には、ものづくりと創造の拠点となるカフェ「FabCafe Fuji」を開業。2021年より、織物産地・富士吉田を舞台にテキスタイルと現代芸術が交差する芸術祭「FUJI TEXTILE WEEK」事務局長をつとめる。国内外のアーティストやデザイナーと地元の織物工場をつなぎ、新たな創造と国際的な文化交流を生み出している。

Photo: Masayuki Nakaya  edit & text : Seika Yajima